北朝鮮各地で7月から国産の白米の価格が急上昇している。
今年に入り、概ね1キロ4500ウォン(約57円)前後で推移してきた国産米の価格が、7月に入ってから上昇を始め、直近の7月第4週には5500ウォン(約71円)突破した。20%ほど上昇したことになる。北部地域に住む複数の取材協力者が調査した。
米価上昇の理由について咸鏡北道の都市部に住む取材協力者は“コメ商売人らは国産米が品薄で、底をつくのも時間の問題だと言っていた。次の収穫後の年末まで上昇が続くだろう”という。
といっても、市場からコメが消えつつあるわけではない。輸入された中国米はどこの市場でも売られている。価格も安定している。
中国米のほとんどは収穫から時間が経った古いコメだ。“質より量”を重視する政府が、中国から低質安価な米を輸入しているからだ。
北朝鮮では、新しくて粘り気のある国内産米の方が人気が高く、中国産より5%程度高いというのが、この20年間変わらぬ相場になっている。国産米が品薄になっているのは、やはり昨年の猛暑と雨不足で生産不振だったためだろう。
金正恩政権は、国家保有食糧を体制維持にとって重要な軍、公安機関、党、政府機関、建設動員者、重要企業、平壌市民から優先的に配給してきた。ところが、これがしばしば市場に流出していく。腐敗幹部による横流しや、金に困った機関が売り払うためだ。
市場で国産米が品薄になっているのは、国家機関や国営企業の手持ちの在庫が底をつきかけていることを意味する。
しかし、国際社会の経済制裁の影響で、北朝鮮各地でアパート価格が暴落していることが分かった。平壌と、北部の両江道恵山(ヘサン)市、咸鏡北道会寧(フェリヨン)市の中心部で調べた。
特に平壌の打撃が大きく、中心地区は半値以下に下がっていた(アパートは中・北部地域一帯では中国元で、平壌では米ドルで取引されているが、ここでは日本円に換算して表示する)。
韓国貿易投資振興公社(KOTRA)によれば、2018年の北朝鮮の貿易額は前年比で48.8%減。輸出が約86%、輸入は約31%減った。ドル箱の石炭や鉱物、水産物などの輸出が制裁で完全に止まり、その収益が平壌に集中して還流する構造である分、平壌のアパート市場への打撃が大きかったわけだ。
恵山(ヘサン)市は鴨緑江を挟んで中国吉林省の長白県に隣接し、中国との貿易が活発で、他の地方都市より経済水準は格段に高い。順番をつけるなら、平壌、次いで経済特区の羅先(ラソン)市、最大の国境都市の新義州(シニジュ)の次に豊かな地域だ。
“富裕層が制裁で打撃を受けたため、アパートの売買がほとんどない状態だ。制裁強化前に320万円だったアパートが約237万円で売りに出されている。約506万円で取引されていた5~6階建ての高級アパートは、買い手がまったく現れず売買が成立しないそうだ。一等地の恵山市場横の恵江(へガン)洞の中古平屋は、3年前まで63~95万円だったが、今は47~63万円ほどに値下がりした”。
会寧市も同様の傾向がはっきり見て取れる。“アパート価格は、制裁の前の2016年と比べると、新築のアパートは80平方メートルのもので111~158万円程度だったが、どれも30%程度下落しており、それでも実際に売買が成立するのは稀だ”。
その一方で、北朝鮮国内で“非社会主義的”とみなされる服装や髪形に対する取り締まりが、最近になって大々的に強化され、若者を中心に反発が強まっている。
“『糾察隊』と呼ばれる風紀取り締まりチームが道端に立って、服装や髪形、靴の検査を行い、没収、罰金、場合によってはその場で髪を切るという強圧的な取り締まりをしており、反発する住民と言い争いが絶えない”北部の両江道(リャンガンド)に住む取材協力者は、7月下旬、このように伝えてきた。
この協力者によると、7月12日には、恵山(ヘサン)市内で、髪を茶色に染めた20代前半の女性が“糾察隊”に摘発されたが、抵抗して自らハサミで髪を切る騒ぎがあった。
“糾察隊”に検挙されると、必ず自己批判書を書かされ、場合によっては思想闘争会議にかけられるか、賄賂を渡さなければならなくなる。その女性は憤慨して自ら髪を切ったのだという。
脚のラインがわかる細身のストレートズボン、高いハイヒールを履いた女性が狙い撃ちされているようだ。“何を着ればよいのか”と反発する人には、“90年代のように地味なズボンに『便利靴』(平たいズック)を履け”と“糾察隊”は言っているという。
統制の強化に対して、若者たちが強く反発しているようだ。韓国や中国の映画、ドラマを見て外国のファッションを知っている若者たちにとっては、それを模倣して装うのは、ささやかな自由への挑戦だ。取り締まりを避けるために、夜になってからお気に入りの服を着たり、整髪料を使ってヘアメイクして外出する若者が少なくないという。
一方、“糾察隊”に動員された者たちは特権をふりかざして、少しでも目に付く装いをしている人を片端から検束しているとして、協力者は次のように述べた。
“『糾察隊』に動員されている者たちの目的は賄賂をたかること。ストレートズボンを履いていて捕まった知り合いの女性は、ガソリン2キロを出す約束をしてやっと解放された。タバコ、ガソリンなどの要求は当たり前になっている。
かつては期間を定めて集中取り締まりをしたが、これからは取り締まりを常態化させるのだそうだ。『非社会主義的』行為を、北朝鮮式良序からの逸脱というレベルから、敵対行為とみなすことになったと言われている。住民の不満は非常に強い”
金正恩政権が社会風紀の取り締まりに熱を上げているのは、昨年来の韓国との融和ムードの中でも、韓国の文化や情報を許容しないことを国民に警告することが目的だと考えられる。
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